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自宅の相続で兄と妹が「争族」に!遺言だけでは不十分なケースも?

 八重さんの介護のため早期退職した翔子さんは、八重さんの年金収入で暮らしていました。知人の税理士からのアドバイスで、八重さんには「自宅を翔子さんが相続する」旨の公正証書遺言を書いてもらいました。
 それからすぐに八重さんが息を引き取り、相続が発生しました。相続財産は自宅とわずかな預金だけ。相続税評価額で1億円に相当しますが、同居している翔子さんは居住用宅地等の特例も受けて、相続税額はないと安心しました。しかし、翔子さんが遺言の通り、実家の土地家屋を相続しようとしたところ、兄・精一さんから「待った」がかかりました。
 精一さんは八重さんの全財産約1億円のうち、法定相続分1/3の半分にあたる1/6相当を相続する権利があると主張してきました。しかし、翔子さんは精一さんに、1億円の1/6にあたる約1,667万円を支払えません。だからといって、自宅を3兄妹で共有することも望んでいません。

 

 遺言で取り分が減っても「遺留分侵害額請求権」がある

 

 なぜ、精一さんは翔子さんに相続を主張できるのでしょう?
 法定相続人には、民法上一定の割合で相続財産を受け継ぐことができると定められています。この割合のことを法定相続分といいます。この法定相続分は絶対ではありません。被相続人は遺言によって、法定相続分と異なる遺産の配分を決めておくことができるからです。
 遺言が適式であれば、たとえ法定相続分と異なる遺産の配分の割合を定めていたとしても、有効となります。法定相続分よりも、遺言の方が優先されるのです。
 そうすると、相続人の中には、遺言が作成されたことにより、法定相続分よりも少ない財産しかもらえなくなる人が出てくることになるでしょう。遺言によって著しく法定相続分を減少させられると、法定相続人の期待を害することになります。
 そこで民法は、法定相続人(兄弟姉妹を除く)に対して、遺言によっても侵し得ない相続財産に対する最低限度の取り分を確保しています。この最低限度の取り分のことを「遺留分」いいいます。遺留分権利者が遺留分を侵害された場合、遺留分の範囲内で遺産を取り戻せる権利のことを「遺留分侵害額請求権」といいます。今回の事例で、精一さんはこの権利を翔子さんに主張したのです。
 法定相続人であっても、「兄弟姉妹」には遺留分は認められていません。遺留分が認められる法定相続人とは、「子」「直系尊属」
「配偶者」だけです。なお、遺留分侵害額請求権の消時効は1年です。
 翔子さんは今後の争いについて、専門家に相談することにしました。
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