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遺言書がないばっかりに跡継ぎの長男が相続できない !?

 陽一さんの父・善介さんは昭和30年に幸子さんと結婚しました。32年に陽一さんが生まれた直後に幸子さんは他界。善介さんは36年

に典子さんと再婚し、2人の間には、浩二さんと光子さんが生まれました。63年に善介さんが死去。そのときの相続では、典子さんと陽一さんが2分の1ずつ相続しました。

 小川家の跡取りは陽一さんということから、浩二さんと光子さんは家を出て独立。陽一さん夫婦が典子さんと同居し、面倒を見ていました。

 平成24年に典子さんが85歳で死去。陽一さんは、自分が典子さんの財産を相続できるものと思い込んでいました。しかし、陽一さんが典子さんの財産を相続するには、2人が養子縁組をするか、典子さんに遺言書を作成してもらう必要があったのです。

 

 

親族が多いと相続放棄を数度申述することに

 

 後悔しても後の祭り。陽一さんが財産を相続するためには、法定相続人にあたる親族に相続放棄してもらわなければなりませんでした。

 1度目の相続放棄申述は、第一順位の配偶者と直系卑属です。この場合は浩二さんと光子さんになります。相続放棄した場合は、その子供には代襲相続はできません。次に典子さんの両親(直系尊属)が、第二順位の法定相続人です。しかし、すでに他界しているので、第三順位にあたる典子さんの兄弟姉妹に相続放棄をお願いすることになります。このとき、典子さんの妹・輝子さんが存命。息子・勲さんには代襲相続権がありません。陽一さんは叔母の輝子さんに相続放棄の申述をお願いしました。これで陽一さんが特別縁故者として相続できるのです。

 相続放棄には「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」から3ヵ月以内という期間制限があります(民法第915条・第938条)。この期間は実際に自分が相続放棄をできる状態になり、それを知った時点でカウントが開始します。

 典子さんの妹・輝子さんが相続放棄できる期間のカウント開始は、早くとも典子さんの実子(浩二さん、光子さん)が相続放棄の申述を完了した時点からとなります。

 親族が多い場合、相続放棄を申述するとなると、数度も繰り返し、手間がかかることになります。